僕には、両親がいない。
そのことに気づいたのは、物心ついてしばらく経ってからのことだった。

僕の側には桜がいて紅葉がいて、養ってくれる大人たちもいて。
それで、何もおかしいことなんてない。
そう思っていた。

だから両親が事故で他界しているのだ、ということを理解した際も、特に衝撃を受けたという記憶がない。
どうしたって、僕にとっての両親は、ここまで僕を育ててくれた二人でしかありえなかったから。

けれども…
どうして僕と桜が別々の家に引き取られたのか。
そのことだけは、とても疑問に思っていた。

子供を一人養うということがどれだけ困難であるか。
当時は、それを想像することすらできなくて…
幼い日の僕たちにとって、それはただ理不尽な話でしかありえなかった。

どうして兄妹が離れて暮らさなければいけないのか。
この世界には神様だとか魔法だとか、何かしら目に見えない大きな力があって。
それが僕たちから両親を奪い、そして今度は妹までをも奪おうとしているんじゃないか?

そんな幼い考えに囚われていた、あの頃。

僕は確かに子供で…
自分一人ではなんにもできなくて…

ただ、桜の実の兄であること。
それが、幼い僕の精一杯だった。

だから――
早く大人になって、僕が桜を守るんだ、と…
僕だけはずっと桜の側にいてあげるんだ、と…


あれから、ずいぶんな時が流れ
数ヶ月後には卒業し、真剣に将来を見据えなければならないこの時になっても

しかし僕は、未だ子供のまま――

いつかの幼い誓いを、果たすことができずにいる